大阪地方裁判所 昭和44年(行ク)22号 決定 1969年10月21日
申立人 林文夫こと林典夫
被申立人 大阪府公安委員会・大阪府東警察署長
主文
申立人の本件各申立てを却下する。
申立費用は、申立人の負担とする。
理由
一、申立人の申立の趣旨および理由は別紙二記載のとおりである。
二、被申立人の意見は別紙三記載のとおりである。
三、当裁判所の判断
本件疎明によれば、被申立人の意見書第二申立の理由に対する答弁に記載の事実が一応認められる。
そうすれば、本件各処分の効力を停止するときは公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるというべきであるから、行政事件訴訟法第二五条第三項により本件各申立はいずれも理由がないものとして却下すべきである。よつて申立費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり決定した。
(裁判官 井上三郎 藤井俊彦 大谷種臣)
別紙一(当事者目録省略)
別紙二
執行停止申立書
申立の趣旨
申立人の許可申請にかゝる昭和四四年一〇月三日実施の国際反戦統一行動集団行進について、被申立人らが各々同年一〇月二〇日付でなした左記々載の不許可処分の効力を仮に停止する。
記
一、大阪府公安委員会指令(警備)第七三八号
大阪市条例第七七号条例第四条に基づく不許可処分
二、東警察交第三〇四四号
道路交通法(昭和三五年法律第一〇五号)第七七条第二項に基づく不許可処分
訴訟費用は被申立人らの負担とする。
との決定を求める。
申立の理由
一~五、別紙訴状援用
六、以上の理由をもつて申立人は貴庁に不許可処分取消の訴を起したものであるが、本件の集団行進は本年一〇月三一日午後七時よりとり行なう予定である。
本案の判決を待つていたのでは申立人の権利は求済されず、本件両不許可処分の続行により回復の困難な損害が生じるのが必至であり、緊急の必要があるものといわねばならない。
このような差し迫つた時間に申立を行なわねばならないのは許可決定書の交付を本日正午にまで遅らせ、それ以前電話連絡にても不許可処分の理由さえ告げなかつた被申立人らに責任がある。
どうか至急御審理の上本件不許可処分執行停止決定を出されるよう申立てる。
疏明方法<省略>
(別紙)
訴状
請求の趣旨
原告の許可申請にかかる昭和四四年一〇月二一日実施の国際反戦統一行動集団行進について、被告らが各々同年一〇月二〇日付でなした左記記載の不許可処分を取消す。
記
一、大阪府公安委員会指令(警備)第七三八号
大阪市条例第七七号条例第四条に基づく不許可処分、
二、東警察交第三〇四四号
道路交通法(昭和三五年法律第一〇五号)第七七条第二項に基づく不許可処分
訴訟費用は被告の負担とする。
との裁判を求める。
請求の理由
一、原告は東大阪べ平連の事務局長であるが、本年一〇月二一日「国際反戦統一行動」をスローガンとして添付略図記載のコースを集団示威行進することを企画した。
二、よつて、同月一八日、大阪府公安委員会並びに大阪府東警察署長に対し、大阪市条例第七七号「行進及び集団示威運動に関する条例」第四条及び道路交通法第七七条第二項所定の許可申請を行なつた。
三、被告らは本年一〇月二〇日付で右各許可申請に対し、不許可処分をなしたものである。
しかしながら右各不許可処分は政治的動機からする「表現の自由」の不当な抑圧であり、公安条例及び道路交通法の趣旨はおろか憲法の保障する人権規定にも反して違法無効のものである。
四、右各不許可の理由は、大阪総評主催のデモ(参加者約六万人)と東区本町四丁目まで「同一時間帯同一経路を行進する」ことになり「本町左専道線の道路幅員約半分を占拠すること」となり「混乱を惹起するおそれがあり、交通上著しい混乱を生ずることは必至であつて公共の安全に差し迫つた危険を及ぼすことが明らかである」ということをその大要とする。
五、(イ) 総評のデモは六万人、東大阪べ平連のデモは約三〇〇名。「同一時間帯、同一経路」と言つても長さにして総評デモの二百分の一の部分が重複するにすぎない。
しかも、大阪の目抜き通りで道巾は広く、四列縦隊を形成しても、僅か二米強増加するだけである。
更に、集団示威行進の周りに警備と称する大量の警察隊が群がる(警備機動隊約八千名と新聞で報道されている)ことを考えれば、本件行進を許可することによつて特にそれによつて「混乱を惹起するおそれがあり、交通上著しい混乱を生ずる」などとは考えられない。
(ロ) 本件不許可処分は、少数の市民の独自的な表現行為を法律的な根拠からではなく、何らかの政治的な意図によつて制限するものとしか思われず、違法無効のものである。
(ハ) 従つて本件の両不許可処分は直ちにとり消されなければならない。
(別紙略図省略)
別紙三
意見書
第一申立の趣旨に対する答弁
本件申立を却下する、
申立費用は、申立人の負担とする、
との裁判を求める。
第二申立人の理由に対する答弁
一〇、二一日には、三〇組の集団示威行進の申請があり、その主要なものだけで、本件を除いて七組になり、北大阪、中郵大阪、南大阪へそれぞれの行進が計画され、動員予定人員八万名である。
ところで本件許可申請にかかる集団示威行進の実施日時および行進経路は、前記集団示威行進のうち先に申請があり、既に許可処分を行なつていた最大の参加人員六万人を予定する大阪総評主催「安保廃棄沖繩奪還ベトナム侵略一〇・二一国際統一行動大阪大会」集団示威行進を城南射撃場跡―本町四丁目間(約二粁)で重複することとなる。総評の右行進に対しては参加人員のうえから六列行進の許可をしているが、それだけで六・二米を要するうえ、申請の行進隊の四列を認めると合計一〇列を許可をすることになり計一〇米以上を要することになり、車道全幅一六米であるから、その半分以上を占拠されることとなり大阪内でも目抜道路有数の交通路である、前記区間の交通上著しい障害を生ずるのみならず、御堂筋の交通要点である本町四丁目交差点における東西、南北の一般交通は完全に遮断されることとなり、一般交通に重大な支障を与え、この混乱は各域に波及し御堂筋はじめとして関連主要路線である南北線である堺筋松屋町筋、九条今里線、大阪枚岡奈良線などの幹線道路にも交通渋滞が惹起されることとなり、かつまたデモと一般交通との同時整理は事実上不可能である。
しかも主催者の異なる集団示威行進が同一時間帯に同一経路で実施されることとなるが次記の経過からみても混乱の生ずることが明らかである。
申請者は、申請当時「デモをやる以上混乱させるのでなければ意味がないから、他のデモがあろうとなかろうとやる。」「我々は、総評デモと同じ集合場所で、同デモに参加した市民労組員に広く呼びかけてデモは、本町四丁目から総評デモ参加者も加え、北大阪に向うこと、つまり一〇・二一斗争における南大阪斗争と北大阪斗争を連帯するパイプ役を果すことが狙いである。
この意味からコース・時間を変更し、また、他の場所に集合地を求めて、全く別のコースをデモする意思はないので、申請は出して帰る。不許可になつてもよい」旨明言している。
すでに、総評の行進隊を北大阪へ誘引するために混乱を惹起することを目的としていることは明らかであり、それは交通上著しい混乱を生ずることが明らかであり、また公共の安全に差し迫つた危険を及ぼすことが明らかであると認められるのであつて、これを不許可処分とした本件処分に何ら違法はない。
また、申請人に対して集合地、時間、コースの変更を行政指導上行なつたのであるが、それでは、その目的(総評行進隊の誘引)を達しえないことを強調してこれに応じなかつたものである。このように集合地、時間、コースを変更したのでは、申請人の意思に反することが明白である以上、集合地、時間、コースに条件を付した許可処分をすることは無意味であつて、相当ではないので結局、不許可処分とすることとしたものである。
なお、本件申請にかかるデモ行進が道路交通法七七条一項四号に該当することは明らかであるから、仮りに本件不許可処分の効力を停止したとしても許可があつたことにはならないし申請にかかるデモ行進を適法になしうることにはならないから結局本件不許可処分の執行停止を求めることは法律上、無意味であるというべきである。